マリー・アンダーセンはその時31才、ノルウェー人のダグ・アンダーセンと結婚したばかりだった。ノルウェーでの新しい生活に胸を膨らませていたが、まず引っ越しを終えなければならない。1988年11月2日のことだ。マイアミ空港は混雑し、チェックインは長蛇の列。やっと順番が来て、マリーは荷物をカウンター横に置いた。だが次の言葉で幸せが吹き飛んでしまった。
「スーツケース二つの超過料金は103ドルです」カウンターの職員は言った。マリーは現金を持っていない。夫はすでに早い便でノルウェーに向かってしまった。そしてマリーには電話できる知人がいない。荷物を減らすにはどうしたらいいか‥でもスーツケースの中身は既に時間をかけて選んだ大事なものばかり。必死で状況を説明しても、職員はなんの同情も示してくれない。
マリーの頬に涙がつたった。どうしたらいいんだろう。その時、後ろから優しい声が聞こえた。「大丈夫だ、私が彼女の超過料金を払うから」マリーが振り返ると、背の高い見知らぬ男が立っていた。男の声は優しかったが、その中に強くしっかりした響きがあった。この人はいったい誰?
20年前のことだけれど、マリーは威厳に満ちたその男のことをよく覚えている。茶色の革靴を履いて、綿シャツとカーキパンツを小ぎれいに着こなしていた。スーツケースを無事にチェックインできたマリーは、その見知らぬ男に103ドルを返すことを約束した。男は自分の名前と住所を紙に書いてマリーに渡した。マリーが何度も礼を言い別れると、彼は手を振って見送った。
紙に書かれた名前は「バラック•オバマ」住所はカンサス。借りた103ドルはノルウェーに着いた翌日に送ったが、マリーはその紙をそれから何年も財布に入れていた。カンサスはオバマの母の住む町。当時オバマはシカゴのコミュニティーワーカーの仕事を終え、ハーバード大学で法律を勉強し始めた頃だ。
2006年春、マリーの両親はオバマが大統領選への出馬を決めかねていることを知った。マリーの両親はオバマに手紙を書いた。応援している、そして18年前に娘を助けてくれてありがとう、と。2006年5月4日に彼らの元へ返事が届いた。「素晴らしい手紙をありがとう。そしてマイアミ空港でのこと思い出させてくれたことに感謝します。あの時、娘さんを助けることができてよかった。ノルウェーで娘さんが幸せにしていることを知って、とても嬉しいです。どうぞよろしくお伝えください。- - 米国上院議員バラック・オバマ」
(from "100 voices")
マリーさんとだんなさまとお手紙。
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